平成30年度「医療倫理学」シラバス

Ⅰ 教育の目的と方針

諸君は、医師として将来、臨床の現場で様々な多くの倫理的な諸問題に直面することが不可避である。包括的な地域ケアシステムの推進や多職種でのカンファレンスが欠かせない現在の医療現場において、「臨床倫理」は医療実践の本質的な要素であるとの認識が広まりつつある。臨床における医療倫理的諸問題は、医療倫理の諸原則が対立する倫理的ジレンマをはらんでいる場合がほとんどである。したがって、入学試験のように明確で唯一絶対正しい答えが存在しないことが通例なのである。そこでは、目の前にある事例が有する倫理的ジレンマに気づくことからはじまり、それらを多様な視点から同僚医師や看護師等の他の医療従事者とともに向き合い考え、倫理的にベターな意思決定の在り方を模索していかなければならない。そのためには、倫理的ジレンマを同定する感受性を高めておくとともに、チームで対話(議論)しながら倫理的価値観の対立する問題に対して考えていく知的忍耐力と実践的コミュニケーション能力が求められる。すなわち、知識の暗記などでは対応できない倫理的認知能力(感受性)と実践的な対応能力を養っていく必要がある。このような観点から本授業では、倫理的感受性とそれを行動に移し実践できる知的態度を涵養する「生きた教養=高度教養教育」を目的とする。

また、医学研究者のみならず臨床医においても薬の治験や臨床研究に将来携わることは少なくない。ディオバン事案の歴史を背負っている本学において、研究不正が生じる原因や構造について理解し、不正を予防するための環境整備や、研究者個々人が有するべき自律した倫理意識と規範的態度の涵養が求められている。そのため本授業では、人を対象とした臨床研究における研究倫理の問題、研究公正における「志向倫理」についても考察する方針である。

 

Ⅱ 教育目標

この授業では、将来、医師として医療に携わり、医学研究者として臨床研究等に関わる諸君が、本音と建前を分けることなく、なぜ今、医療現場や臨床研究において臨床倫理や研究倫理が問われているのか、そして患者・ご家族や被験者の人権や自律の尊重や倫理的配慮がなぜ大切であるのかについて真剣に考え理解できる知的基盤を構築する。これらの教育の狙いを達成するために、本授業では必要な背景的知識の提供や倫理的論点を明確にするための解説を行う。しかし、それにとどまらず、受講生をグループに分けて具体的な臨床倫理の事例について主体的に考え意見交換や議論をする参加型の授業形態を取入れる。実践的な教育目標の達成には、受講生の主体的で積極的な授業参加を期待する。

グループ・ディスカッションでは、臨床倫理や臨床研究の具体的な諸問題を取上げ、異なる価値観を有する他者である患者やご家族、被験者などの当事者の気持ちを推論できる実践能力、個人的な直観や価値観を押し付けることなく全人的医療をチームで提供できる能力の涵養、そして公正な研究に従事できる志向倫理的な態度を養成することを教育目標とする。

 

Ⅲ 授業形態

授業では、臨床倫理に関する国内外の現状の紹介や方法論などの臨床倫理の諸問題に向き合い取り組む上で必要になる知的枠組みについて講義し、様々なドキュメンタリー映像も視聴する。また学外の専門家としてゲストスピーカーを招聘し、話題提供や教示を頂く予定である。臨床倫理で問題となる具体的な事例について、グループでの他の受講生との意見交換やディスカッションを行うことで、価値観が異なる他者の意見やその根拠に真剣に耳を傾け、自らの見解や考えを反省的に捉え相対化できる柔軟で多角的な思考を養う。

グループでの事例検討のプレゼンテーションも予定している。毎回記入して提出する受講生のフィードバック・コメントを活用し双方向的な講義を展開する予定である。

 

Ⅳ 授業概要

授業で取り扱う内容は、概ね以下のテーマやトピックを予定しているが、コマ数の関係で若干変更することもあり得る。

1.医療倫理の基本原則と自己決定制約の四原理:自律とパターナリズム

2.臨床倫理の方法論:4分割法、ナラティヴ・アプローチその他の方法論

3.予後や医療情報の告知や遺伝学的情報の開示

4.代理出産、精子・卵子売買、着床前診断と選別(救世主ベビー)、出生前診断と選択的堕胎など、生殖補助医療をめぐる倫理

5.重度障害新生児の治療停止、人工生命維持装置の取り外しなどの消極的安楽死や自殺幇助などの積極的安楽死や尊厳死、治療拒否、輸血拒否、胃ろう問題など、人生の最終段階をめぐる倫理

6.薬害や医療過誤訴訟などの被害者の人権と法的責任の問題

7.治験や臨床試験などの医学研究と研究不正問題、臨床研究を審査する倫理審査委員会の現状と役割、利益相反問題などの研究倫理

 

Ⅴ 指導方法

次回の授業内容に該当するテキストの章や配布資料や検討事例に目を通してくること。フィードバック・コメントシートに毎回授業で新たに得た知見や洞察を記入し、質問事項があれば記入して提出すること。次回授業では、はじめにそれらの質問の主なものに答えるとともに、必要に応じて補足のコメント等を行う。

 

Ⅵ 教科書、参考文献等

必携教科書:箕岡真子『臨床倫理入門~ケースから学ぶ臨床倫理~』(日本臨床倫理学会編集、へるす出版2017年)

参考書:【参考文献資料】

①浅井篤「臨床倫理―基礎と実践」(浅井篤・高橋隆雄(編)『シリーズ生命倫理学 第13巻 臨床倫理』(丸善出版2012年)所収)

②服部健司・伊東隆雄(編)『医療倫理学のABC(第3版)』(メヂカルフレンド2015年)

③宮坂道夫『医療倫理学の方法: 原則・ナラティヴ・手順(第3版)』(医学書院2016年)

④A・ジョンセン他『臨床倫理学~臨床医学における倫理的決定のための実践的なアプさローチ』第5版(赤林・蔵田・児玉監訳、振興医学出版社2006年)

⑤石垣靖子・清水哲郎編著『臨床倫理ベーシックレッスン』(日本看護協会出版会2012年)

その他の参考文献等については講義中に紹介し、参考資料は、適宜配布する。

 

Ⅶ 成績評価基準

成績評価は、平常点とレポート試験等を総合的に判断して行う。

1 平常点

毎回行う授業フィードバック・コメントにより出席確認を行う。参加型授業であるため単位取得のためには、原則最低8回以上の出席を必要とする。遅刻時間数の合計が60分以上の場合には1回分の欠席としてカウントする。遅刻の合計が120分以上の場合には出席回数を2回分がマイナスされる。病気その他のやむをえない事情で出席回数がこの要件に達しない者は、個別に相談すること。授業開始時間から30分以上遅刻の場合や終了時刻30分以前の退出は出席と見なされない

出席点は1回1点、毎回のフィードバック・コメントの内容も評価対象とし、グループプレゼンテーションその他での授業への積極的参加と貢献度も平常点の評価対象とする。

2 レポート試験

レポート試験は、毎回の授業に積極的に参加していなければ論述が難しい課題とする。

瀬戸山代表写真

高い人権意識を有した医療従事者と研究倫理規範を備えた医学研究者の育成を目指して

瀬戸山 晃一

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