平成30年度「現代正義論」シラバス

Ⅰ 教育の目的と方針

この講義で考察する正義とは、Justice, Fairness(公正)の意味であり、正義論とは、自由と平等・不平等(格差)や差別をめぐる議論と論争のことである。現代社会では以前にも増して多様な価値観を有する人々が共存している。現代医療や社会をめぐる、さまざまな議論や論争の背後には、多様な当事者(利害関係者・ステークホルダー)の利益相反や価値観の対立が存在している。現代正義論は、個人の自己決定の自由をめぐるリベラリズムの理論をめぐって繰り広げられている。リベラリズムは、個人の自己決定を尊重する理論的な基盤であり、現代の医療倫理の四原則の中の患者や被験者の「自律尊重の原則」やそれを制度化したインフォームド・コンセントの理論的論拠となるものである。本講義の目的は、アクチュラルな問題を題材に、対立する意見や議論が、いかなる哲学理論に基づいて主張されているのかを理解することにある。そして、前期の「倫理学」で得た知的洞察をより広い現代的で具体的な問題や知的枠組みの中で応用し思考を深化させ発展させることを教育方針とする。

 

Ⅱ 教育目標

授業では、せめぎあう正義論を展開する主義や理論アプローチが拠りどころにする世界観や事実認識、そして理論前提および知的死角などについて理解する。そして、それぞれの立場が、何の平等を重視し、何の不平等(格差)を軽視あるいは意図的に無視する傾向にあるのかを理解する。これらの知的営みを通して、受講生が自らの考え(価値観)を相対化するとともに、自省的に見つめなおし、異なる価値観を有する他者に対する寛容な知的態度の養成、及びそれを日常生活や将来の医療専門家としての実践に活用できる知的シーズの植え付けを行うことを本講義の主たる教育目標とする。また特定の道徳を啓蒙し教育するのとは正反対に、現在流布している様々な道徳や主義を批判的に検討する知的視座の涵養を当該授業の一つの教育目標とする。

換言するならば、現代の医療倫理学や被験者の人権に配慮したガイドラインの哲学的倫理的な基盤となっている様々な理論や主義を、いわば手術台に乗せて解剖し、その中身、特に目的論や義務論等の様々な理論間の緊張関係や対立とその論拠を可視化する。そして、それらの考察過程を通して、自由の意義とその限界、道徳(哲学)理論間や自由と平等の対立構造などの動的な相互関係を捉えることで、多様な価値観を有する個々の患者さんやご家族の方への寛容な態度や、マイノリティーである当事者の声に耳を傾け、気持ちを推論する能力を養うことを教育の最終目標とする。

 

Ⅲ 授業形態

授業は、主として講義形式で行うが、マイケル・サンデル教授による白熱教室の日本語ナレーション付の映像ビデオを早送りで一部視聴し、それを題材に補足の解説や問題提起を受講生に投げかけて考えてもらう。毎回の受講生が提出する簡単な授業のフィードバック・コメントの中の疑念や質問に答えるなど、双方向的な講義を展開する。受講生数にもよるが、いくつかのグループに受講生を分けて、そのグループ内において受講生同士で取り上げたトピックについて、意見交換やディスカッションも行ってもらう予定である。

 

Ⅳ 授業概要

2002年から3年間に亘り米国のジョージ・W・ブッシュ大統領が設置した生命倫理委員会の委員を務めたマイケル・サンデル教授がハーバード大学の白熱授業において実際に取り上げている医療に直接的間接的に関係する具体的な事例に基づいて、功利主義、リベラリズム、リバタリアニズムなどの現代生命倫理学の基盤となっているさまざまな道徳哲学理論、政治哲学理論や社会哲学理論を批判的に吟味する。そして具体的な事例をめぐる論争の背後にある、義務論と目的論の対立、帰結主義、徳倫理学、リベラリズムとリバタリアニズムの論争、コミュニタリアニズム、フェミニズム理論、グローバル化と多文化主義、世界正義論などについて理解を深める。

 

Ⅴ 指導方法

フィードバック・コメントシートに毎回授業で新たに得た知見や洞察を記入し、質問事項があれば記入して提出すること。次回授業では、はじめにそれらの質問に答えるとともに、必要に応じて補足のコメント等を行う。

 

Ⅵ 教科書、参考文献等

必携教科書:マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』(鬼澤忍[訳]、早川文庫2011年)、マイケル・サンデル『ハーバード白熱教室講義録上・下』(小林正弥・杉田晶子[訳]、早川文庫2012年)。

参考文献:森村進『法哲学講義:法と正義を根本から考える』(筑摩書房2015年)、井上達夫『世界正義論』(筑摩選書2012年)。

その他の参考文献等については講義中に紹介し、参考資料は、適宜配布する。

 

Ⅶ 成績評価基準

1 平常点(26%)

毎回行う授業フィードバック・コメントにより出席確認を行う。単位取得の(学期末試験を受ける)ためには、最低9回以上の出席を必要とする。遅刻時間数の合計が60分以上の場合には1回分の欠席としてカウントする。遅刻の合計が120分以上の場合には出席回数を2回分がマイナスされる。病気その他のやむをえない事情で出席回数がこの要件に達しないものは、個別に相談すること。授業開始時刻30分以上遅刻の場合や終了時刻30分以前の退出は出席と見なされない。出席点は1回1点、毎回のフィードバック・コメントの内容は全体で13%の評価割合とし、両者を合わせて合計26%を平常点とする。

2 筆記試験もしくはレポート試験(74%)

試験は、筆記もしくはレポート試験とする。毎回の授業をしっかりと聞き、ディスカッションに積極的に参加し考えていないと論述が

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