平成30年度「倫理学」シラバス
Ⅰ 教育の目的と方針
医学科生対象の選択必修科目ということもあり、生命倫理学(医療倫理学、臨床倫理学)を中心に、具体的な現代医療をめぐる問題を題材に講義を行う。
そもそも倫理学とは一体どのような学問分野であり、医歯薬学や理工学などの自然科学とどこか異なるのか。そして人文社会科学の中では、どのような位置づけになり、いかなる学術上の特色や方法論を有しているのかについて理解する。知識の獲得に講義の主眼を置くのではなく、唯一の正しい解答のない、倫理学者間においても意見の対立する、現代医療の倫理的諸問題を多角的でグローバルな視座から捉え、時間をかけて考え抜く知的忍耐力を養うことを本講義の目的と方針とする。
Ⅱ 教育目標
この授業では、将来、医療に携わる皆さんが、本音と建前を分けることなく、なぜ今、医療において倫理が問われているのか、患者の人権や自律の尊重がなぜ大切であるのかについて真剣に考え理解できる知的基盤づくりを行う。臨床倫理の諸問題を取上げ考察することで、異なる価値観を有する他者である患者(当事者)の気持ちを推論し、個人的な価値観を押し付けることなく全人的医療を提供できる柔軟な思考と知的態度を養成することを教育目標とする。
Ⅲ 授業形態
授業は、主として講義形式で行うが、取り上げる現代医療のテーマに関する様々なドキュメンタリーの映像も視聴する。昨年度同様に看護学科と合同授業とし、グループでの看護学生との意見交換やディスカッションを行う。毎回記入して提出する受講生のフィードバック・コメントを活用し双方向的な講義を展開する予定である。
Ⅳ 授業概要
- 医療倫理の四原則と自己決定(自由)制約の四原理
- 自律、インフォームド・コンセントとパターナリズム
- 遺伝子検査と遺伝学的情報のプライバシー
- 雇用や医療保険や生命保険における遺伝子差別
- 遺伝子介入と増強(エンハンスメント)、ゲノム編集、デザイナーベビー
- 生殖補助医療(代理出産、精子・卵子売買、着床前診断と選別(救世主ベビー)出生前診断と選択的堕胎など)、赤ちゃんポスト
- 終末期医療(重度障害新生児の治療停止、人工生命維持装置の取り外しなどの消極的安楽死や自殺幇助などの積極的安楽死や尊厳死、治療拒否、輸血拒否、胃ろうなど)
- 混合診療や臓器売買など医療へのアクセスの平等性
- 治験や臨床試験などの医学研究とディオバン事案などの研究不正問題、臨床研究を審査する倫理審査委員会の現状と役割、利益相反問題などの医学研究倫理
Ⅴ 指導方法
次回の授業内容に該当するテキストの章や配布資料に目を通してくること。フィードバック・コメントシートに毎回授業で新たに得た知見や洞察を記入し、質問事項があれば記入して提出すること。次回授業では、はじめにそれらの質問の主なものに答えるとともに、必要に応じて補足のコメント等を行う。
Ⅵ 教科書、参考文献等
必携教科書:村松聡・松島哲久・盛永審一郎(編)『教養としての生命倫理』(丸善出版2016年)。
参考書:マイケル・サンデル『完全な人間を目指さなくてもよい理由:遺伝子操作とエンハンスメントの倫理』(林芳紀・伊吹友秀訳、ナカニシヤ出版2010年)。
その他の参考文献等については講義中に紹介し、参考資料は、適宜配布する。
Ⅶ 成績評価基準
1 平常点(26%)
毎回行う授業フィードバック・コメントにより出席確認を行う。単位取得の(学期末試験を受ける)ためには、最低9回以上の出席を必要とする。遅刻時間数の合計が60分以上の場合には1回分の欠席としてカウントする。遅刻の合計が120分以上の場合には出席回数を2回分がマイナスされる。病気その他のやむをえない事情で出席回数がこの要件に達しないものは、個別に相談すること。授業開始時間から30分以上遅刻の場合や終了時刻30分以前の退出は出席と見なされない。出席点は1回1点、毎回のフィードバック・コメントの内容は全体で13%の評価割合とし、両者を合わせて合計26%を平常点とする。
2 筆記試験(74%)
筆記試験は、毎回の授業をしっかり聞いて考えていないと論述が難しい課題とする予定である。
高い人権意識を有した医療従事者と研究倫理規範を備えた医学研究者の育成を目指して
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