公立大学法人 京都府立医科大学

医学生命倫理学

人文・社会科学教室 Biomedical Ethics. Research Ethics

令和7年度「医療倫理学」シラバス

Ⅰ 教育の目的と方針
 
 臨床における医療倫理的諸問題は、医療倫理の諸原則が相互に対立する倫理的ジレンマをはらんでいる場合がほとんどである。そこでは、明確で唯一絶対正しい答えは存在せず、同僚医師や看護師その他の医療スタッフとともに多様な視点から向き合い、患者本人とご家族にとって望ましい意思決定支援のあり方を模索していかなければならない。そのためには、倫理的ジレンマを同定する感受性の感度を高めておくとともに、チームで対話しながら倫理的価値観の対立する問題に対して考えていく知的忍耐力と実践的コミュニケーション能力が求められるため、本授業では、受講生の皆さんが、倫理的感受性とそれを行動に移し実践できる知的態度を涵養する「生きた教養=高度教養教育」を目的としている。
 また、臨床医においても知見や臨床研教に携わることが多くなっており、本授業では、人を対象として臨床研究における研究倫理にも焦点を当て、研究公正における研究者マインドに必要な「志向倫理」的な態度の重要性に触れ、臨床倫理の諸問題に向き合い取り組む上で必要となる知的枠組みについて理解し実践する。
 
Ⅱ 教育目標
 
この授業では、将来、医師として医療に携わり、医学研究者として臨床研究等に関わる諸君が、本音と建前を分けることなく、なぜ今、医療現場や臨床研究において臨床倫理や研究倫理が問われているのか、そして患者・ご家族や被験者の人権や自律の尊重や倫理的配慮がなぜ大切であるのかについて真剣に考え理解できる知的基盤を構築する。これらの教育の狙いを達成するために、本授業では必要な背景的知識の提供や倫理的論点を明確にするための解説を行う。それにとどまらず、受講生をグループに分けて具体的な臨床倫理の事例について主体的に考え意見交換や議論をする参加型の授業形態を取入れる。グループ・ディスカッションでは、臨床倫理や臨床研究の具体的な諸問題を取上げ、異なる価値観を有する他者である患者やご家族、被験者などの当事者の気持ちを推論できる実践能力、個人的な直観や価値観を押し付けることなく全人的医療をチームで提供できる能力の涵養、そして公正な研究に従事できる志向倫理的な態度を養成することを教育目標とする。
 
Ⅲ 授業形態
 
 授業では、必要な背景的知識の提供や倫理的論点を明確にするための解説を行い、学外の臨床倫理が研究倫理の専門家の先生を招聘し、講義と事例検討のワークを行う。受講生はグループに分かれ、他の受講生との意見交換やディスカッションを通じて、価値観が異なる他者の意見やその根拠に耳を傾け、自らの見解や考えを反省的に捉え相対化できる柔軟で多角的な志向マインドを養う。グループでの事例検討の発表も行う。
 
Ⅳ 授業概要
 
授業で取り扱う内容は、概ね以下のテーマやトピックを予定しているが、コマ数の関係で若干変更することもあり得る。

  • 医療倫理の基本原則と自由制約の四原理(パターナリズム)
  • 事例検討:医療情報の開示と予後こくち、胃瘻の事例
  • 臨床倫理の方法論:4分割法、ナラティヴ・アプローチ他
  • 患者の意思決定支援とアドバンスケア・プランニング
  • 臨床倫理と4分割法
  • 宗教上の信条による輸血拒否グループによる事例検討と発表
  • 遺伝情報のプライバシーと遺伝子差別
  • 医学研究不正と研究倫理:不正のトライアングル・利益相反
  • グループでの事例検討と発表
  • プロフェッショナリズムと研究倫理

 
Ⅴ 教科書、参考文献等

  • 【必携テキスト】
  •  宮坂道夫『原則と対話で解決に導く医療倫理学』
  • (医学書院、2024年 ISBN 978-4-260-05757-8、3,190円(2,900円+税)
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  • 【参考文献】
  •  箕岡真子『臨床倫理入門〜ケースから学ぶ臨床倫理〜』(日本臨床倫理学会編集、へるす出版、2017年)
  •  箕岡真子『エンド・オブ・ライフケアの臨床倫理』(日総研出版、2020年)
  •  宮坂道夫『医療倫理学の方法: 原則・ナラティヴ・手順(第3版)』(医学書院2016年)
  •  清水哲郎・会田薫子・田代志門編『臨床倫理の考え方と実践』(東京大学出版会、2022年)

その他の参考文献等については講義中に紹介し、参考資料は、適宜配布する。
 
Ⅶ 成績評価基準
 
成績評価は、平常点と筆記試験等を総合的に判断して行う。
1 平常点(50%)
毎回出席確認並びに授業フィードバック・コメントの提出を合わせて出席確認とする。毎回提出のフィードバック・コメントの内容は評価対象とし、授業中の私語や居眠り、正当な理由のないZOOM画面のオフなどは減点の対象とする。
 
2 筆記試験(50%)
筆記試験は、論述試験で全て参照物不可とし、毎回の授業に積極的に参加していなければ論述が難しい設問とする予定である。
 


高い人権意識を有した医療従事者と研究倫理規範を備えた医学研究者の育成を目指して
瀬戸山 晃一

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